Pick Up!!
山に登る方、登ってみたい方にお読みいただきたい2本。
登山におけるクマ対策
登山はクマの生息地に入っていくレジャーです。 少しでもクマに会った際の被害を軽減するためにまとめました。
登山保険(山岳保険)加入のススメ
登山保険についてまとめました。

Coming Soon!!
◎ 三鷹ネットワーク大学 サイエンスカフェみたか
 (2017年3月9日午後7時〜8時30分)
・クマが日本にやってきた



 

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2017年02月17日

【論文紹介】空間的遺伝的分化における生態学的・地理学的影響の評価

2014年5月に東大で開いた景観遺伝学勉強会で私が担当した論文のレジュメです。


Quantifying the roles of ecology and geography in spatial genetic divergence
Wang,I.J., Glor,R.E. & Losos,J.B. (2013)
Ecological Letter 16: 175-182 doi: 10.1111/ele.12025

距離が離れていたら環境も異なることが多いため、IBDとIBE (Isolation-by -Environment)の貢献度を切り分けることは本質的に難しい
→IBDとIBEの貢献度を定量化する新しいSEM(Structural Equation Model:構造方程式モデル)

マテメソ
・Anolis属のトカゲ4島、17種。mtDNA上のいくつかの領域。3種はnDNAも。【Fig.1】
・2つを地理的距離とした →Resultsより:2つのコスト距離は強く相関していた(r2 > 0.65)。
  1.最小コスト距離 2.Circuit距離:2地点間の可能パスのコストの総和。
・環境変数は気象(11)、地形(8)、植生(4)、標高の24種類。

SEM:構造方程式モデル
・SEM:回帰分析やパス解析を下位モデルとして含む、第2世代の多変量解析モデル。
複数の変数同士の複雑な関係性を評価できる。
→地理的距離や環境変数などの大量の異なる変数の遺伝的距離への貢献度を評価できる。
他の変数から推定するような直接測定できない潜在的な変数も使える。
→地理的距離も環境変数も潜在的な変数として扱う。

【Fig.2】SEMにおけるパス図:□ 計測値、○ 潜在的な変数
地理的距離と環境類似度は標準化して共分散を計算
 →RのLavaanパッケージのmaximum –likelihood estimation (MLE)で計算
各パラメータはシミュレーションで推定 →AICでベストモデルを探す

手法の検証
・GDM(Generalized Dissimilarity Modeling)とvariation partitioning analysisで検証。
この2種は潜在的な変数を用いることができないので、予測変数をPCAで先に選択する。

結果
構造方程式モデル
・【Tab.1, Fig.3】17種中15種でIBDが有意に貢献しており、13種でIBEが有意に貢献していた。
11種で、IBE+IBDのモデルが、どちらか一方のモデルよりもAICは適したスコアを示した。
平均してIBDが36.3%、IBEが17.9%の説明力をもっていた。
Cuba・Puerto Rico:IBD>IBE、 Hipaniola:IBD手法の検証
・全体的にGDMもvariation partitioning analysisもSEMの結果を支持。
【Tab.2】nDNAとmtDNAの比較。
A.porcatus:nDNAとmtDNAそれぞれ単独で行っても結果は類似。
他の2種:nDNAは単独で解析できるほどの変異が無く、mtDNA単独とmtDNA+nDNAを比較してもほとんど違いは無かった。

考察
構造方程式モデル
・SEMによってIBDはIBEの約2倍の影響力があることがわかった。
・Hispaniolan:5種中4種でIBE > IBD。IBEの貢献度が最も高い(5種平均22.6%)
←環境の不均一性:大
・他3島間:環境類似度に違いは無し。各島のサンプリングサイトごとの環境変数でも有意な違いは無い
→IBEの貢献度が低くなった。

手法の検証
・検証に2手法でSEMの結果を支持。nDNAを含んでも支持 → SEMの頑健性
posted by bigwest at 16:36| Comment(0) | 雑文(研究関係)

2015年05月08日

登山におけるクマ対策


(東北を中心に書いていますが、内容は全国共通です。ヒグマが生息している北海道は特に深刻な内容です)

山登りに関する情報交換の際に、「あの辺りはよくクマが出るから気をつけて」というような声を耳にします。

しかし、私が声を大にして言いたいのは、クマなんてどこにでもいます
特に、私が今住んでいる岩手県を始めとする東北地方の山はどこにでも高密度にいます。

そもそも登山とはクマの生息地に入っていくレジャー(スポーツ)であり、クマと遭遇するリスクを最初から考慮に入れるべきです

「あの辺りはクマが出る」というのは、おそらく「人慣れしていたり警戒心の薄い個体が目撃される」という意味であり、むしろそういった個体は襲ってくる可能性が他の個体に比べて低いかもしれません(確信は持てませんが)。

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クマがよく出ると言われる秋田駒ヶ岳のお鉢付近で見つけたツキノワグマ。
こちらがどんなに騒いでも、のんびりとお昼寝してました。


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こちらは北上山地の某所。数日前から新聞等で目撃情報が報道されていましたが、私たちが近づいても常に一定距離を保ちつつ食べ歩きをしていました。



クマに襲われるのは「突然出くわした」というケースがほとんどであり、その際にクマ側が自分自身を守るために襲ってくるのです。
その点から考えると、「あの辺りはクマが出る」という情報が指している個体はむしろ襲ってくる可能性は低く、他の個体・他の地域こそ警戒する必要がありそうです。
(もちろん「あの辺りはクマが出る」という地域でも複数個体が生息しているので、やはり警戒は必要です)。

登山におけるクマ対策は「襲われた時にどうするか」ではなく「出くわさない」のが鉄則ですが、今回の記事ではあえて襲われた場合の状況を書きます。

クマに関する専門家や関心の高い一般市民で構成される「日本クマネットワーク」が2011年にクマと遭遇した際の被害状況をまとめています。

「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」
http://www.japanbear.sakura.ne.jp/cms/2011/05/post_40.html

クマによる被害はここの18〜20ページにまとまっています。

ヒグマは北海道、ツキノワグマは本州、四国に生息していて、九州ではすでに絶滅しています。


【ヒグマ:ほぼ重傷か死亡。ツキノワグマ:約半数が重傷】
図1-19(18ページ)によると、
ヒグマが生息している北海道では、半数近くが死亡、4割程度が重傷です(不明を除いて考えています)。
繰り返します。ヒグマに襲われた場合、ほとんどが重傷か死亡です。

ツキノワグマに襲われた場合は、半数近くが重傷で、死亡は5%程度です(不明を除いて考えています)。

ヒグマに襲われて死亡した場合(ツキノワグマでもありえますが)、多くのケースで自分の死体がクマに食べられると思って下さい。
北米でのヒグマの被害(北海道のヒグマと同種です)をまとめた、「ベア・アタックス―クマはなぜ人を襲うか」では、被害者がまだ生きているにも関わらず太ももを食べられた例などが紹介されています(その後救助され、片足切断したものの命は助かりました)。

【とにかく頭部を守る】
攻撃される場所は地域を問わず顔と頭部で約4割を占めます(20ページ、図1-22:不明を除いて考えています)。
次いで、腕・脚です。報告書によると

「北米のグリズリーどうしが出合って攻撃し合うときは,お互いの顔や頭に攻撃を加えて相手が攻撃できなくすると考えられている(ヘレロ 2000).これと同じやり方で,人に対しても顔の付近を狙った攻撃を加えたものと考えられた.クマによる攻撃への対処は,その場面によって様々な方法が考えられるが,もしも積極的な反撃よりも防御を選択すべきようなときには,俯せになって両腕で顔と頭の両側(および頸部)を保護する姿勢(ヘレロ 2000)は非常に有効であると考えられる.また,ヘルメットなど頭部を保護できるものを着用することも有効であろう.」

「腕と脚も被害が多く発生している部位である.腕への被害は,クマの襲撃から身を守ろうとして被害を受けた場合に,また,脚や背部への被害は,襲撃から逃れようとして背後から受けた被害であることが推測される.食肉類の多くがそうであるように,クマは逃げるものなら何でも追いかけると考えられている(ヘレロ 2000).クマと遭遇したときに,背を向けて逃げることは避けるべきである.」


としています。ちなみに、ヘレロ 2000 は先述のベア・アタックスです。



攻撃スタイルは噛むのとひっかく(叩く)が多いようです(19ページ、図1-21:不明を除いて考えています)。
また、噛むのはどこでも噛めるところを噛むけど、ひっかくのは顔と頭が多いようです(49ページ、図2-2-29)。

顔の場合は目を失う例をよく聞きます。 失明ではなく、目玉を持ってかれます(目玉が外に飛び出します) 。
頭は頭から首にかけて皮膚が剥かれたり、頭蓋骨が見えたりする例を聞きます。



いかがでしょうか?

この記事を読んで、少しでも「怖い」と思った方は、素直に今すぐクマ撃退スプレーとヘルメットを買いましょう!!

クマスプレーは1万円前後するために購入をためらってしまいますが、グループ全員が持つ必要はありません。また、友人同士で貸し借りしても良いでしょう。
私もよく友人に貸しますが、「もし使ったら新しく買って返して」と言っています。

しかし、当然ながらクマスプレーは持っているだけでは意味はありません。
クマに遭遇した際に、クマスプレーをザックに入れていて取り出せずに襲われてしまった例もあります。
私はいつもショルダーベルトかウエストベルトに付けています。
そして、登山開始後、できるだけ早いタイミングで歩きながらスプレーを見ないで外し、安全トリガーを見ないで外すところまで数回練習します。
もしクマに遭遇した際に落ち着いて対応できるためのイメージトレーニングです。

また、クマスプレーはイノシシ、サル、野犬などに襲われた際にも有効です。


ヘルメットは昨年の御嶽山の噴火でその必要性が再認識されたでしょう。
また、今年、林内で作業中にヒグマに襲われた方のヘルメットには爪で穴が開いていたとのことです。
幸い一命をとりとめましたが、ヘルメットを着用していなければ死亡していた可能性が極めて高いでしょう。


鉈(ナタ)などをクマ対策として携行する人もいますが、私はお薦めできません。
ツキノワグマの体格は成人男性と同じ程度なので勝てる気がするかも知れませんが、やはり野生動物です。筋肉量、スピードが我々とは格段に違います。また、彼らの爪は立派な凶器です。

もしあなたが格闘技や武道の経験があったとしても、初めて対峙する、どう動くか、どんなスピードで動くかもわからない相手の攻撃をかわして急所を一発で斬れる自信はありますか?

鉈で追い払いに成功した例は実際にありますが、ほぼまぐれと言って良いでしょう。
急所を外した場合、逆上してさらに執拗に攻撃してくる場合もあるでしょう。
さらに、深手を負ったクマが(人間に恨みを持ってか)数時間〜数日後に関係のない他の人を襲った例が数多くあることも添えておきます。


万が一、クマに襲われ際は(出くわした、ではなく、襲われた、です)、手で首をガードして地面に伏せてください。脚もたたんで亀状になるのが良いでしょう。背中はザックが、頭はヘルメットが守ってくれます。倒木などがあれば、可能な限り体をそこにくっつけます。
とにかく、露出している箇所を減らすのが肝心です。


クマ対策は「出会ったらどうするか、ではなく、出会わない対策を」というのが鉄則です。
ですが、今回一番伝えたいこと(クマスプレーの携行とヘルメットの着用)の印象が薄れてしまうので、今回は出会わない対策はあえて書きません。


追記:この記事で紹介しているクマネットワークの報告書は、人里に出没したクマや作業中の事故を主体としているので、出没傾向や対策などは人里へのものであり、我々がクマの生息地に踏み込んでいく登山とは別の物だと思って下さい。

追記2:登山保険についても書いているのでご一読ください。


posted by bigwest at 00:00| Comment(0) | 雑文(研究関係)

2014年06月16日

【論文紹介】哺乳類メスの社会的なphilopatryとdispersalの進化


The evolution of social philopatry and dispersal in female mammals.
T. H. Clutton-Brock and D. Lukas
Molecular Ecology (2012) 21(3):472–492


2年ほど前に開いた輪読会でのレジュメです。


イントロ

哺乳類のメスの社会構造は大きく2つに分けられる

メスがphilopatry
多くの種がこのタイプ
母系/血縁の繁殖集団を形成


メスがdisperser
血縁構造は見られない



メスにおけるphilopatryと分散の進化については30年以上も前から議論になっているが、いまだに混沌としている。
その理由として、philopatryおよび分散の定義が微妙に異なるからだ。

@ 集団遺伝学や個体群動態の分野では、
philopatryは出生個体群に留まる事、分散は出生個体群から移出する事、とする場合が多い。

A 分散を種内の雌雄間の平均分散距離の差で議論する場合
 問題点:仮に雌雄共に分散してもメスの平均分散距離が短ければ、
オスがdisperser、メスがphilopatryとされる

→ 「分散するか否かの要因」と「分散した際のその距離を決める要因」は異なる
 *分散するか否か ← 出生集団内の社会的要因
 *分散距離 ← ハビタットや性比などの生態学的要因
  これらは分けて考えなければならない

B 分散距離を正確に計る事が困難
→ 遠くへ分散するほど再発見率が下がるため過小評価をすることが多い
  出生後分散、繁殖分散の区別が曖昧。

本レビューでは
『出生地・出生集団を離れ、血縁関係のない異性個体と繁殖行動を取った場合に、分散したと見なす』



メスのphilopatryと分散の多様性

@メスphilopatry:メスは一生を出生集団で過ごし、他の集団への移動はほとんど無い

Aメスdisperser
A−1:繁殖メスがテリトリーを持つ(多くの齧歯類、食虫類、食肉類など)。
または1頭の繁殖メスを含んだ異性ペアもしくはグループ。
この“単一繁殖メス”では、亜成体メスは出生地から強制的or自主的に分散する事になる。
A−2:複数の繁殖メスがグループ内にいて、これらのメスは亜成体時に他グループから分散してきているため、そのグループ内に血縁メスはほとんどいない。(社会性の馬、熱帯性のコウモリ、クモザル、ウーリークモザル、アカコロブスモンキー、hamadryas baboon、African great apes3種など)
これらの種の多くは、繁殖メス間の社会的結合は弱く、定住オスが死んだりいなくなった場合には、そのグループはしばし崩壊し、メスは再分散する。

B性差無し:シャチやゴンドウイルカは雌雄と雌雄とも出生グループに留まる。しかし、繁殖は他のグループと行う。
ハダカデバネズミでは、ある程度のオスが分散し、メスは非血縁個体に選好性を示すが、基本的に両種ともphilopatryで、近縁間で交配している場合が多い

Cメスphilopatry and/or disperser:繁殖グループ内の上位メスや上位メスの近縁メスはphilopatryで、下位メスは強制的or自主的に分散する。ミーアキャット、ライオンやゴールデンライオンタマリン、red howler monkey, black-tailed プレーリードッグなど。


●メスが分散する要因

自主的:出生エリア/グループの中で繁殖機会の有無
・周辺メスとの相対的な大きさ、コンディション、発達度合いなど
・出生グループに上位メスがいるため(ミーアキャットなど)

強制的
・上位メスから追い出される→他のグループに入るか、新たにグループを作る
・グループが分裂する


メスがphilopatryであることの利益


●分散する際のコスト、デメリット
・出生地外の資源の分布状況に熟知していない→探索に時間を費やすために採餌時間が減少
(ミーアキャット:分散メスは定着メスに比べ体重増加率が低い)
→ 繁殖開始が遅れ、繁殖の機会の減少。

・熟知していない土地では捕食者と遭遇する危険性が高い
(white-footed mouse:分散メスは定着メスに比べてフクロウに発見される率が高い)

・分散個体は時には定着個体にも攻撃される
(ハイイロオオカミ:分散メスは定着メスの5倍の死亡率。アカホエザル:分散メスは半数近くが死亡)

●血縁個体との関係性
メスはしばしば非血縁個体よりも血縁個体に対して寛容で、これが繁殖成功や生存率に+の効果

ハタネズミ類:
・メスの行動圏は基本的に排他的だが、隣接する血縁メスの行動圏と大きく重複する場合がある。
・血縁メスの近くに行動圏を持つ場合が多く、こうしたメスは繁殖が早い、一腹仔数が多い、次の繁殖期までの生存率が高い
・繁殖メスが巣を共有して子供を一緒に世話することがあり、繁殖成功率を上げ、育児にかかわるコストを引き下げている。

prairie vole:共同繁殖が一般的で、エサ資源が乏しい時に一緒に育児をする姉妹が存在する場合、母個体の体重減少は抑えられる。

Alpine marmot:幼体は最初の冬を血縁関係の近い大きな冬眠グループで過ごした時の生存率が高く、血縁グループに入っているメスは繁殖率が非血縁グループよりも高い。

grey seal:血縁個体が近くにいると子供の成長が早く、また体サイズも大きくなる
アカホエザル:出生グループに留まった個体の繁殖成功率は高い

White-faced オマキザル:血縁グループにいると次期繁殖までの期間が短い。

ラット:血縁個体は資源や侵入者に対する防御にも協力的で、若い個体は年長の血縁者の存在がしばしば利益になる。母親が近くにいるメスはより多くの子を産む。

図1: 家ネズミの人為的なグループにおける生涯の繁殖成功度。標準化された生存期間中の出産数の平均。血縁で、かつ友好的な個体と一緒の場合にもっとも高かった。第一メスは非友好的で非血縁個体と一緒の時のみ繁殖成功が低かった。第二メスはいつも第一メスよりも成功度は低いが、友好的な血縁個体と一緒の時には第一メス程度に繁殖できた。


メスが分散することの利益

メスが分散をすることについて主に4つの利益が考えられる。

@ 資源や繁殖のチャンスが乏しい下位のメスがそのグループから逃れられる。
・多くの種で、下位のメスは資源や繁殖チャンスを上位メスにしめられている。
 yellow-bellied marmot:母娘間に競争があると娘の繁殖開始齢が遅れ、生涯の繁殖適応度が低下
・個体群密度が高いときに、限られた資源の獲得競争を避けるために分散。
・資源が枯渇しているときに、資源を求めるために分散
 カリフォルニアジリス:給餌エリアには非給餌エリアからの移入が見られる
・グループの個体数適切なサイズを上回ったときに分散率が上昇
 アフリカライオン:ハビタットに対する適切数を超えたときに、グループから分散が起きる。

A 理論モデルから、メス分散は血縁個体との間接的な競争を避けていると示唆されている。
しかし…
・母系血縁個体の存在が分散を促しているという証拠はほとんど無い。
root vole:若いメスを母個体と非血縁個体のもとにおいても繁殖抑制が起きるわけでもないし、分散が促されるわけでもない。

・繁殖メスは非血縁個体よりも血縁個体に対して寛容で、これは血縁個体が近くにいる事で分散率が下がる事を示唆している。
ミーアキャット:下位メスは、優占メスと血縁関係が強いと追い出されづらい。

図2:アカリスでは母個体が自分の娘に行動圏の一部を譲って、自分は別の場所に新たに行動圏を確立することがある。図は春繁殖に成功したメスの、春の行動圏と秋の行動圏の距離。
Keep territory:移動なし。 Share territory:娘と行動圏の一部をシェア
Bequeath territory:娘に行動圏の一部またはすべてを譲渡 
Juveniles:春生まれの子供の出生地から秋の行動圏の距離

春から秋にかけて分散したメス個体の適応度は、分散しなかったメス個体との差はなし。


B 捕食や移入オスからの子殺し回避。
移入オスによる子殺しが起きる時に、メスは子供を連れて繁殖グループから移出することがある。

C 分散する事で血縁オスとの距離的に離れて、近親交配を回避する。
ほとんどの哺乳類では近親交配回避のためにどちらかの性が分散する。
稀にオスが育児に参加するために、メスの方が分散する場合がある。

図3:white-footed mouseの近親交配によって生まれた個体(点線)と非近親交配によって生まれた個体(実線)を野外に放した場合の生存率。
図4:アカシカの標準化されたヘテロ接合度(横軸)と生涯の繁殖成功度(縦軸、LBS: Lifetime Breeding Success)の関係

メスが性成熟した際に、父親もしくは血縁オスが同じグループもしくは近隣にいて、性的に活発であれば、メスは繁殖抑制をするかグループから移出する。
dwarf mongoose、African wild dog:若いメスの出生グループの第一オスが非血縁個体ではなく、血縁個体だった場合、若いメスは分散する傾向にある
マウンテンゴリラ:出生グループの繁殖オスが1頭で、それが父親だった場合、若いメスは繁殖前に分散する。複数のオスがいる場合は、少なくても1回は出生グループで繁殖する。齧歯類の実験では、近県オスの存在がメスの分散を促す。
meadow vole:実験区の中に血縁オスと放すと、非血縁個体と放した場合に比べて多く分散した。

図5:white footed mouse。子どもと親を一緒にした場合の子供の性成熟頻度。オス・メスともに自分とは異なる性の親が一緒のときは性成熟せず。メスは単独よりも母個体と一緒の方が性成熟度合いが高い。一方、オスは父親の存在下で性成熟が抑えられた。



●メス分散は競争や迫害を避けるためというのはコンセンサスが得られているが、近親交配回避はメス分散の基本的な理由としてはまだ意見が一致していない。
・近親交配回避はそれ自体はメス分散の進化的な要因とはならない(オス分散でも良い)
・分散後も実際に血縁個体と交配を避けているというデータは無い。
Reindeer:メスが血縁オスのいる繁殖グループに移入する事を回避したというデータは無い
アメリカクロクマ:血縁個体との繁殖を避けている事は無い。

しかし、、、 齧歯類:分散メスが血縁オスとの繁殖を回避した例がある

これらの違いは種による移動性が挙げられる。
・孤立したり小さい環境で生活している比較的定住性の種:分散メスでも血縁個体と遭遇する機会が多く、血縁個体を識別する能力が発達している
・移動性の高い種:分散後に血縁個体と出会う機会が少ないので、血縁個体の認識能力が乏しく、出生後分散の距離は資源や空き空間、繁殖チャンスの影響を受ける。



メスphilopatryの種による違い

メスphilopatryが一般的で分散はコストがかかるということは、メスにとって出生地に留まる事が最適な戦略であることを示唆している。

単独メスが繁殖をするグループでメスが分散的になるのは、簡単に説明できる。若いメスが繁殖チャンスを求めて移出したり、上位メスから追い出されたりするからだ。

対照的に、比較的少数の複数メスが繁殖するグループで若いメスが分散しがちなのは、説明が難しい。
局所的なエサ資源の枯渇という訳でもないだろう。

従来、メス分散の進化について主に2つの解釈がなされてきた。

@ グループ内の個々のエサ資源が少なくグループ内で他者と競争が起きる場合、直線的な階級性と相互の協調性は発達せず、血縁個体と関係性を保つ事のメリットは低く、メスは資源競争を避けるために分散する。

これは霊長類においてWrangham(1980)が最初に提唱し、当初は霊長類学者を中心に広く受け入れられたが、最近ではその欠点が指摘されている。
・資源競争が類人猿の分散を促して、集中性を弱めているというデータはない。
・メスのphilopatryと、エサの質もしくはエサ資源の分布との関係性を明らかにした例は哺乳類全体においても無い。
・直線的なメスの階級性と協調性がメスphilopatryな環境で見られたとしても、この仮説の反証にはならない。

A メスの繁殖開始齢よりも長く繁殖オスが居座り続けるようなときにメス分散がおきる

・オスが比較的長命でメスの繁殖開始齢よりも長く上位オスとして居続けるような種では、メスが繁殖のために分散をする(熱帯性のコウモリや野生ウマ、great apeなど)。
・メスの繁殖開始齢よりもオスが早く失脚するような場合は、メスはphilopatryになる(多くの哺乳類)。
・多くの群れをなす鳥は、両生とも比較的長命であり、メスが性成熟したのちも父親もまだそこにいるので、近親交配が起きる可能性が高く、メス分散が一般的となる。


Philopatryの性差の進化

●オスがメスよりも分散的である理由
@ 性比がメスに偏っている集団に分散することで得られるオスの利益は大きい。
性比がオスに偏っている集団にメスが分散しても、適応度にそれほど変化はない。

A 分散によって失う利益はメスの方が大きい。
メスは繁殖においてエネルギー的に多大な投資が必要であるため、メスは血縁個体が周りにいる集団に留まるほうがコストを抑えられる。エサ量や個体群密度を調節した実験でも、メスにより大きく影響する事が支持されている。

B メスに分散する必要性が無い
メスが分散するより前に上位オスが入れ替わる事で若いメスが血縁オスと繁殖する可能性が低くなるため、高い分散コストをかけてまで分散する必要が無い。一方で、メスによる近親交配を避けるための定着オスとの繁殖回避は、オスに対して分散を促す事になる。

●オスがphilopatryになる例
第一オスが、メスの繁殖開始齢よりも長くその地位に留まり続けるとき、そのオスはそこに留まり続ける。このような状況下で、出生グループでは非血縁オスと交配できない性成熟メスは分散する事になり、一旦メス分散が進化してしまうとそれが一般的となり、オスにとっては上位オスが認める限り分散しない事が最適な戦術となる。

●両性がphilopatry
@ シャチ、ゴンドウクジラ:両性とも他のグループの非血縁個体と繁殖する。この雌雄共にphilopatryが進化した理由はまだ不明で、個体の分散コストを評価するのに良い例となるだろう。

A ハダカデバネズミ:雌雄とも出生グループに留まり、ときどき血縁個体間で繁殖をする。
しかし、最近の研究では、オスは分散し、メスも非血縁個体に選好性があると示唆している。


●鳥類との比較
@ 鳥類のオスはメスよりもphilopatryである方がテリトリーの防御に有利で、より利益を得られる。
一方、哺乳類は基本的に一夫多妻であり、土地よりもメスグループを防御する。

A 鳥類は育児にかかるコストに雌雄差がほとんどない。
哺乳類はメスに偏っているため、メスはphilopatryの方が有利。

B オスの繁殖期間がメスの繁殖開始齢を上回り、メスが非血縁オスと繁殖するため分散する。


ディスカッション
このレビューにおける主は4つの結論
@ Philopatryはメスにとって共通した利益をもたらす。例えば、エサ資源の分布や逃走経路などの詳細な知識を維持できる、母系血縁個体間の援助や寛容性を享受できる。一方、分散はしばしば生存率と繁殖成功においてコストを強いる。
A 出生グループ内でメスが成長して繁殖メスとなる種では、メス分散の頻度は資源や繁殖競争の程度、上位メスによる繁殖障害や抑制、血縁メスの存在、その個体自身の大きさや状態、などの生態学的・行動学的要因に影響される。
B メス分散の進化は、そこでのオスの繁殖期間の影響を受け、メスが近縁オスと交配しないようにするために起きる。
C 生態学的・進化学的要因が個体の分散/philopatryに与える重要性は、そのスケールによって異なる。例えば、血縁個体との繁殖回避は出生グループからの分散に重要な役割を持つが、それらが分散距離や分散頻度にも影響を及ぼすというデータはほとんど無い。

●今後に向けて
とにかく、分散とphilopatryの進化についての我々の理解はまだまだだ。
・野外調査に基づく研究は分散の頻度について記述していて、philopatryメスの繁殖率などについて言及しているものはほとんど無い。
・philopatryと分散がメスの繁殖成功度に及ぼす影響についてもっと考察しなければならない。
・分散距離の変異が、非血縁個体との繁殖の可能性や成功率に及ぼす影響について研究した例はまだ無い。
・血縁メスがいるグループからオスが分散する場合、その分散は非血縁パートナーを探すためなのか、近親交配回避なのかはまだ明らかになっておらず、この2つを区別できる操作実験が必要だ。
・出生グループからの分散後に血縁個体同士が出会う可能性と、一旦分散した後も近親交配を回避できるのかを知る必要が有る。さらに、分散後も近親交配回避できるという証拠がある場合、親しい個体との交配を避けているのか、血縁個体との交配を避けているのかを明らかにする必要が有る。
・構築されるグループの血縁構造におけるメス分散種とメスphilopatry種との間の違いを理解する事も大事だ。
・メス分散種で、メスの繁殖グループが非血縁関係にあるとき、階級制はそれほど発達しておらず、また協調性もほとんど無いことが示唆されている。しかし、これについてはメスphilopatry種などとのシステマチックな比較研究は行われていない。
・メスphilopatryとオスによるメスの血縁グループ防御についての可能性のある結論として、メスの選好性は、メスが分散して複数の繁殖相手から選択できる機会を持つ種よりも弱いのかも知れない。これは哺乳類と鳥類におけるオスの装飾の発現の違いも考慮できる。しかし、メスの選好性の強さや、メスの選好性がメス分散種とメスphilopatry種間でのオスの適応度の違いにもたらす影響について研究した例はない。
・メス分散の違いは、繁殖グループの動態や個体群密度の安定性に重要な要因であろう。メス分散の変異の個体群動態への影響はほとんど研究されていない。

まぁ、とにかく、まだまだやるべきことは沢山あるよ ┐(´д`)┌

posted by bigwest at 17:02| Comment(0) | 雑文(研究関係)