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登山におけるクマ対策
登山はクマの生息地に入っていくレジャーです。 少しでもクマに会った際の被害を軽減するためにまとめました。
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2015年05月08日

登山におけるクマ対策


(東北を中心に書いていますが、内容は全国共通です。ヒグマが生息している北海道は特に深刻な内容です)

山登りに関する情報交換の際に、「あの辺りはよくクマが出るから気をつけて」というような声を耳にします。

しかし、私が声を大にして言いたいのは、クマなんてどこにでもいます
特に、私が今住んでいる岩手県を始めとする東北地方の山はどこにでも高密度にいます。

そもそも登山とはクマの生息地に入っていくレジャー(スポーツ)であり、クマと遭遇するリスクを最初から考慮に入れるべきです

「あの辺りはクマが出る」というのは、おそらく「人慣れしていたり警戒心の薄い個体が目撃される」という意味であり、むしろそういった個体は襲ってくる可能性が他の個体に比べて低いかもしれません(確信は持てませんが)。

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クマがよく出ると言われる秋田駒ヶ岳のお鉢付近で見つけたツキノワグマ。
こちらがどんなに騒いでも、のんびりとお昼寝してました。


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こちらは北上山地の某所。数日前から新聞等で目撃情報が報道されていましたが、私たちが近づいても常に一定距離を保ちつつ食べ歩きをしていました。



クマに襲われるのは「突然出くわした」というケースがほとんどであり、その際にクマ側が自分自身を守るために襲ってくるのです。
その点から考えると、「あの辺りはクマが出る」という情報が指している個体はむしろ襲ってくる可能性は低く、他の個体・他の地域こそ警戒する必要がありそうです。
(もちろん「あの辺りはクマが出る」という地域でも複数個体が生息しているので、やはり警戒は必要です)。

登山におけるクマ対策は「襲われた時にどうするか」ではなく「出くわさない」のが鉄則ですが、今回の記事ではあえて襲われた場合の状況を書きます。

クマに関する専門家や関心の高い一般市民で構成される「日本クマネットワーク」が2011年にクマと遭遇した際の被害状況をまとめています。

「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」
http://www.japanbear.sakura.ne.jp/cms/2011/05/post_40.html

クマによる被害はここの18〜20ページにまとまっています。

ヒグマは北海道、ツキノワグマは本州、四国に生息していて、九州ではすでに絶滅しています。


【ヒグマ:ほぼ重傷か死亡。ツキノワグマ:約半数が重傷】
図1-19(18ページ)によると、
ヒグマが生息している北海道では、半数近くが死亡、4割程度が重傷です(不明を除いて考えています)。
繰り返します。ヒグマに襲われた場合、ほとんどが重傷か死亡です。

ツキノワグマに襲われた場合は、半数近くが重傷で、死亡は5%程度です(不明を除いて考えています)。

ヒグマに襲われて死亡した場合(ツキノワグマでもありえますが)、多くのケースで自分の死体がクマに食べられると思って下さい。
北米でのヒグマの被害(北海道のヒグマと同種です)をまとめた、「ベア・アタックス―クマはなぜ人を襲うか」では、被害者がまだ生きているにも関わらず太ももを食べられた例などが紹介されています(その後救助され、片足切断したものの命は助かりました)。

【とにかく頭部を守る】
攻撃される場所は地域を問わず顔と頭部で約4割を占めます(20ページ、図1-22:不明を除いて考えています)。
次いで、腕・脚です。報告書によると

「北米のグリズリーどうしが出合って攻撃し合うときは,お互いの顔や頭に攻撃を加えて相手が攻撃できなくすると考えられている(ヘレロ 2000).これと同じやり方で,人に対しても顔の付近を狙った攻撃を加えたものと考えられた.クマによる攻撃への対処は,その場面によって様々な方法が考えられるが,もしも積極的な反撃よりも防御を選択すべきようなときには,俯せになって両腕で顔と頭の両側(および頸部)を保護する姿勢(ヘレロ 2000)は非常に有効であると考えられる.また,ヘルメットなど頭部を保護できるものを着用することも有効であろう.」

「腕と脚も被害が多く発生している部位である.腕への被害は,クマの襲撃から身を守ろうとして被害を受けた場合に,また,脚や背部への被害は,襲撃から逃れようとして背後から受けた被害であることが推測される.食肉類の多くがそうであるように,クマは逃げるものなら何でも追いかけると考えられている(ヘレロ 2000).クマと遭遇したときに,背を向けて逃げることは避けるべきである.」


としています。ちなみに、ヘレロ 2000 は先述のベア・アタックスです。



攻撃スタイルは噛むのとひっかく(叩く)が多いようです(19ページ、図1-21:不明を除いて考えています)。
また、噛むのはどこでも噛めるところを噛むけど、ひっかくのは顔と頭が多いようです(49ページ、図2-2-29)。

顔の場合は目を失う例をよく聞きます。 失明ではなく、目玉を持ってかれます(目玉が外に飛び出します) 。
頭は頭から首にかけて皮膚が剥かれたり、頭蓋骨が見えたりする例を聞きます。



いかがでしょうか?

この記事を読んで、少しでも「怖い」と思った方は、素直に今すぐクマ撃退スプレーとヘルメットを買いましょう!!

クマスプレーは1万円前後するために購入をためらってしまいますが、グループ全員が持つ必要はありません。また、友人同士で貸し借りしても良いでしょう。
私もよく友人に貸しますが、「もし使ったら新しく買って返して」と言っています。

しかし、当然ながらクマスプレーは持っているだけでは意味はありません。
クマに遭遇した際に、クマスプレーをザックに入れていて取り出せずに襲われてしまった例もあります。
私はいつもショルダーベルトかウエストベルトに付けています。
そして、登山開始後、できるだけ早いタイミングで歩きながらスプレーを見ないで外し、安全トリガーを見ないで外すところまで数回練習します。
もしクマに遭遇した際に落ち着いて対応できるためのイメージトレーニングです。

また、クマスプレーはイノシシ、サル、野犬などに襲われた際にも有効です。


ヘルメットは昨年の御嶽山の噴火でその必要性が再認識されたでしょう。
また、今年、林内で作業中にヒグマに襲われた方のヘルメットには爪で穴が開いていたとのことです。
幸い一命をとりとめましたが、ヘルメットを着用していなければ死亡していた可能性が極めて高いでしょう。


鉈(ナタ)などをクマ対策として携行する人もいますが、私はお薦めできません。
ツキノワグマの体格は成人男性と同じ程度なので勝てる気がするかも知れませんが、やはり野生動物です。筋肉量、スピードが我々とは格段に違います。また、彼らの爪は立派な凶器です。

もしあなたが格闘技や武道の経験があったとしても、初めて対峙する、どう動くか、どんなスピードで動くかもわからない相手の攻撃をかわして急所を一発で斬れる自信はありますか?

鉈で追い払いに成功した例は実際にありますが、ほぼまぐれと言って良いでしょう。
急所を外した場合、逆上してさらに執拗に攻撃してくる場合もあるでしょう。
さらに、深手を負ったクマが(人間に恨みを持ってか)数時間〜数日後に関係のない他の人を襲った例が数多くあることも添えておきます。


万が一、クマに襲われ際は(出くわした、ではなく、襲われた、です)、手で首をガードして地面に伏せてください。脚もたたんで亀状になるのが良いでしょう。背中はザックが、頭はヘルメットが守ってくれます。倒木などがあれば、可能な限り体をそこにくっつけます。
とにかく、露出している箇所を減らすのが肝心です。


クマ対策は「出会ったらどうするか、ではなく、出会わない対策を」というのが鉄則です。
ですが、今回一番伝えたいこと(クマスプレーの携行とヘルメットの着用)の印象が薄れてしまうので、今回は出会わない対策はあえて書きません。


追記:この記事で紹介しているクマネットワークの報告書は、人里に出没したクマや作業中の事故を主体としているので、出没傾向や対策などは人里へのものであり、我々がクマの生息地に踏み込んでいく登山とは別の物だと思って下さい。

追記2:登山保険についても書いているのでご一読ください。


posted by bigwest at 00:00| Comment(0) | 雑文(研究関係)
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