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2012年06月29日

クマ運


大学院生の頃、私の周りで 「クマ運」 という単語がよく使われていました。

特に何か理由があるわけでもないのに、よくクマを見る人を「クマ運がある
その逆を「クマ運がない」と言います。


現在、ツキノワグマを材料に研究している私は当然クマ運があっても良さそうなものですが、これが見事に全然無いのです。

博士課程の頃はヒグマ密度が比較的高い地域を1人でネズミを捕まえにササこぎをする毎日でしたが、一度も見た事はありません。

「今排出されたばかりの新鮮な糞」や「クマ以外に説明が付かない何か獣が逃げていく音」などは何度も見聞きして、ニアミスは有るのですが。。。

逆に言うと、これはクマに出会わない対策をきちんとしていた、とも考えられるので悪い事ではないのですが。

クマ運の無さは、例えばこんな感じです。

.学生時代、友人らととある月曜日から固定調査地で調査していました。
 金曜日の午後に札幌で用事があった私は、みんなで昼食を済ませた後に1人でその場を離れたのですが、私がそこを発った数分後にクマが現れたとのこと。

.世界一ヒグマ密度が高い事で知られる知床では、夏になると観光客が車を停めてクマの写真を撮っている風景がニュース映像などで知られています(これを地元ではクマ渋滞と呼ぶそうです)。
知床財団に4日ほど研修で伺った際にも、私の滞在中に続々とクマの目撃情報は集まるものの、結局一度も姿は見られず。

.県内に在住のアマチュアカメラマンの方が、「確実にクマを撮れるスポットがあるから」
ということで撮影に同行させていただきました。もちろん、その日もクマは見られず。
(ちなみに、この方にはクマ運の話はしていません。もう呼んでいただけないかもしれないので・・・)

.こんなクマ運の無さ(結局の所、捕獲作業などでしかまだ野生のクマを見た事がありません)を知った共同研究者で、いつも行動観察をしている方が「2日いれば確実に見れる」というスポットに案内してくれました。
3日滞在しましたが、ダメでした。


いや、良いんですよ。
私はクマを直接観察するような研究スタイルじゃないし、上述の通りきちんと対策ができている、ということなのかもしれないし。。。


しかし! ついに野生のクマに“遭遇”しました

先日、日帰りで岩手県内の山を登ったときの帰りの道中。
左右を畑に囲まれた1本道の集落で、オトナの個体が車の前を横切っていきました。

十分に距離はあったので、まったく心配することは無かったのですが、
この日も登山中に私の「クマ運の無さ」の話をしていたので、同乗者のみなさんが
クマ運解禁 を祝ってくださいました!


とはいえ、再来週からナキウサギの調査で1週間ほど1人で大雪山に籠もります。

このタイミングでクマ運解禁はとても怖い。。。
posted by bigwest at 21:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文(日記?)

2012年06月09日

宮城県におけるツキノワグマの出没について

ここ数週間、宮城県内でツキノワグマが多く出没しており、マスコミ等で報道されています。

多くの報道の論調は
・5月末までで去年の3倍
・今までこの時期にクマがでることは無かった
というようなものです。

そこで、宮城県環境生活部自然保護課のwebサイトにあるここ数年の出没頭数のデータをまとめてみました。
slide1.jpg
この図は各年ごとの出没頭数の季節的な変動です。
これからわかるように夏(7〜9月)に出没頭数が増える事がわかります。
西日本では秋にピークを迎えますが、このように夏にピークを迎えるのは東北地方の特徴です。
slide2.jpg
興味深いのはこの図です。
これは各季節の出没数が年ごとに変動する様子です。
夏(7〜9月)をそのまま入れてしまうと、他の季節の変動が小さくなって見えづらいので、夏の出没数は1/5にしてあります。

注目すべきは春〜初夏(4〜6月)の出没数の変化です。
2007年以降は多い年と少ない年を繰り返しています。
今年のデータは6月5日までの値なので、今後も増える事が予想されますが、
「08年、06年に比べ多い感じはするが、驚くべき数ではない」
というのが私の印象です。

出没の理由としては秋の出没のケースから「山の中のエサが少ない」というのがたぶん正解でしょうが、正直なところわかりません。

また、この時期のクマにとっての食料は、ドングリなどの堅果に依存している秋にくらべて非常に多様であり、何がキーになっているのかを明らかにするのは極めて難しいと思います。

ただ、08年、10年、今年と、いずれも前年秋の出没が少ないことがわかります。
秋の出没が少ないということは、その秋は冬眠に向けた食いだめに必要なエサが十分にある、ということを意味し、さらにそのため冬眠中に出産したメスが多い事も示唆します。

このことから、春の出没が多い年は子連れの母グマが多く、授乳のため多くのエネルギーを必要としているのかもしれませんが、これについては出没個体の特徴(年齢、性別、子供の有無など)のデータがないので推測の域を出ません。

さらに、今回のように報道を見聞きすることによって、従来だったらクマを見ても情報として届け出なかったり、他の動物(大きめの黒い犬とよく見間違えられます)と思い込んでいた場合でも、県や警察に届けられるようになり積み上がることも考えられます。


いずれにせよ、全国的なクマの分布域の拡大や、いくつかの地域で個体数の増加が報告されていることから考えると、東北地方でもクマの生息数は増えていると私は考えています。
そのため、この春の出没は今年に限った「異常」なことではなく、今後も続く事が予想されるので、中長期的な対策をとることが必要でしょう。

クマの出没地域にお住まいの方は、十分お気を付け下さい。

*このことについて、6/11(月) 夕方のNHK仙台ラジオ「ゴジだっちゃ!」の気になるニュースのコーナーで解説する予定です。
posted by bigwest at 16:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文(研究関係)

2012年04月05日

Spirit bear : 白い黒熊


哺乳類における毛色多型は常にホットな話題の1つですが、近年はそれに遺伝的要因を考慮した解析が進んでいます。
国内ではニホンウサギやアカネズミを材料にした研究をよく耳にします。


北米に生息しているアメリカクロクマ (American black bear, Ursus americanus)は日本に生息しているツキノワグマ (Asian black bear, Ursus thibetanus) と生態が類似していると言われています。

ツキノワグマはアジアクロクマと呼ばれることからも、両種は黒いことが特徴の一つですが、カナダ・ブリティッシュコロンビア州西部の一部には白いアメリカクロクマがいることが知られています。
この地域のアメリカクロクマはKermode bear (Ursus americanus kermodei)という亜種であり、特に白い個体はSpirit bearと呼ばれ狩猟が禁止されています。

この白化はメラノコルチン1受容体(mc1r)という遺伝子の298番目の塩基であるAがGに変異し、それが劣勢遺伝子としてホモになったときに現れる事がわかっています。

2つ前の記事(耳垢と体臭の関係)のGとAが逆の関係になっていますが、メンデル遺伝や優勢/劣勢の関係についてはややこしいですが「耳垢タイプは遺伝子で決まる」を見てください。
耳垢:Gが優勢、Aが劣勢
今回の体色:Aが優勢、Gが劣勢


http://www.kermode-terrace-bc.com/spiritbear.html
ここで映っている親子の写真は母親が黒で、子が白(GG)なので、母親は必ずAGだとわかります。父親はヘテロの黒(AG)か、白(GG)なのでしょう。

http://www.wildanimaltracks.com/spirit_bear.htm
こちらは逆に母親が白(GG)なので、黒い子供はヘテロ(AG)です。父親はホモ(AA)なのかヘテロ(AG)なのかは不明です。

さて、このmc1r遺伝子の頻度について面白い事がわかっています。


より大きな地図で Sprit bear を表示
(マークが1つしか見えないときは地図の範囲を広げてください)


この地図で示した3つの島87頭分の各遺伝子型の頻度は以下の通りです (Ritland et al. 2001)。

各遺伝子型の観察数(とその期待値)、およびG遺伝子の出現頻度
AA(黒) AG(黒) GG(白) G遺伝子の頻度
Gribbell島 7 (4.4) 6 (11.3) 10 (7.4) 0.565
Princes Royal島 26 (22.9) 17 (23.2) 9 (5.9) 0.336
Roderick島 9 (7.52) 1 (4.0) 2 (0.52) 0.208
合計 42 (33.6) 24 (41.0) 21 (12.5) 0.379


数字は実際にその島で観察された個体数(観察値)で、括弧の中の値は期待値です。
特にヘテロ接合(AG)の時の観察値が期待値よりも小さい事がわります。

ここで、期待値の説明をします。

G遺伝子の3島合計の頻度は0.379となっていますが、ということはA遺伝子の頻度は0.621 (= 1-0.379)となります。
大きな箱にAと書いた玉621個とGと書いた玉379個を入れ、2つずつ取り出します。
1000個の玉から2個ずつなので、500組ができあがることになりますが、このとき
AAという組み合わせが現れる確率は0.386 (=0.621 x 0.621)で193組 (=0.386 x 500)
AG0.470(=0.621 x 0.379 x 2)で235組
GG0.144 (=0.379 x 0.379)で72組

となります。

このようにA遺伝子とG遺伝子がランダムに交配する(つまり、それぞれの遺伝子を持った雌雄がランダムに交尾をする)時に生じる子供の遺伝子型は理論的には上記の頻度で出現するはずです。これが期待値です。

上記の表に戻ると、合計で41.0頭(=0.470 x 87頭)のAG個体の出現が期待されるのですが、現実には24頭しか観察されていません。その分、AAとGGのホモ個体が期待値より多く出現しています。このことから、交配はランダムには行われていないことがわかります。

これらの島で白化遺伝子が維持され、またヘテロ接合度が低くなる理由についてHedrick and Ritland (2012)は3つの可能性について考えています。

1.遺伝的浮動(ドリフト)と遺伝子流入
2.選択
3.Assortative mating(同類交配)



1.遺伝的浮動(ドリフト)と遺伝子流入
上述のA・Gと書いた玉の話です。
500組取り出した場合、AAが199組、AGが233組、GGが68組できあがることが期待されます。
この箱から50組だけ取り出したとしたら、AAが約20組、AGが約23組、GGが約7組できあがるでしょう。
これを10組だけとしたら、GGのペアができないかも知れません。逆にたまたまGGが3組もできてしまうかもしれません。
このように数が減少すると、次世代に引き継がれる遺伝子の頻度がランダムな期待値から大きく外れてしまいます。これを遺伝的浮動(ドリフト)と呼びます。

遺伝的浮動が強くなると、多くの場合、頻度が低い遺伝子が失われてしまいます。
野生動植物の保全に関して遺伝的多様性がよく問題になりますが、希少種は個体数が減少していることが多く、この遺伝的浮動が強くかかって遺伝子の多様性が失われる懸念が強いのです。

Spirit bearに話を戻すと、上述の3頭のうち、一番大きなPrinces Royal島ですら個体数は1200頭以下と考えられています。
全てのクマが繁殖できるわけではないので、実際に繁殖に貢献する個体数はもっと少なく、やはり遺伝的浮動が強くかかっているのでしょう。

遺伝的多様性を減少させる遺伝的浮動に拮抗的な作用を持つものは遺伝的交流(遺伝子流動)です。
今回の場合、これらの島は近隣からの個体の移入が、0.02の割合で起きていると考えられています。
しかし、移入個体はG遺伝子を持っていないので、これらの島でのG遺伝子の頻度は下がってしまいます。

ということで、遺伝的浮動と遺伝子流入が続くとG遺伝子は失われてしまう可能性が高いわけです。


2.選択
しかし、数千年〜数万年にわたってSpirit bearが存在していることから、なんからのG遺伝子を増やす方向の力が働いているはずです。その“力”として考えられるのが選択です。

白い個体(GGホモ)だと、黒毛に対して生存率、繁殖率、出生率などが高ければA遺伝子よりもG遺伝子が次世代に引き継がれる頻度が高くなります。
毛色が繁殖率や出生率に直接的に影響しているとはあまり考えられません。

クマと聞いて秋に川に遡上するサケを獲って食べているイメージを持つ人も多いでしょう。
おそらく多くの人のそのイメージは北海道のヒグマによるものだと思いますが、このGribbell島の白毛クマは黒毛クマに比べてサケの捕獲率が高いというデータがあります (Klinka and Reimchen 2009)。

さらに、サケは黒いマントを着た人間よりも白いマントを着た人間のほうが認識できない、ということまで彼らは調べています。
おそらく、水中からの光の変化によって、白色を上手く認識できないのでしょう。

秋はクマにとって冬眠のための食いだめのシーズンで、いかに多く食べられるかは冬眠の成功率に関わってくるし、さらに多く食いだめできた冬には出産する事が出来ます。

ということで、白毛クマはサケの捕獲率が黒毛クマよりも高いことが、生存率と繁殖成功率につながっているのだろう、と筆者は考察しています。


3.Assortative mating(同類交配)
ヘテロ接合個体(AG)が期待値よりも少ないのは、交配はランダムには行われていないことによる、と書きました。
ここでAssortative mating(同類交配)が考えられます。
黒毛は黒毛と、白毛は白毛と交配する傾向があるということです。

黒毛クマの適応度を白毛クマの0.8、他地域からの移入率を0.05と仮定した場合のシミュレーションの結果、60%近い割合で同類交配が行われていると推測されます

しかし、なぜ同類交配が起きるのかはわかりません。
著者らは、白毛の母親を見て育った子供はその色をすり込まれて、白毛クマを選択的に繁殖相手に選んでいるのかも知れない。けど、たぶんこれだけでは説明できない。と、白旗をあげています。


ここの説明には繁殖行動の直接観察や、遺伝分析による家系解析など、バックグラウンドとなるデータが必要でしょう。
しかし、いずれにせよ、遺伝的浮動・選択・同類交配と3要因が絡んでおり、遺伝構造の変化を考えるうえで興味深い個体群である事には間違いありません。


ところで、ヒグマでは国後島での白い個体がいることが知られています。

朝日新聞:北方領土で独自進化?白いヒグマ、国後島で撮影成功


Spirit bearに比べ集団サイズが小さいことや、他地域からの移入が無いことを考えると、白化による毛色多型のモデルとしてはこちらの集団の方が扱いやすそうです。
が、いかんせん、国後島という場所では踏み込んだ研究は難しそうですね。


【参考文献】
Klinka D.R. and Reimchen T.E. 2009. Adaptive coat polymorphism in the Kermode bear of coastal Blitish Columbia. Bio. J. Linn. Soc. 98: 479-488.
Hedrick P. W. and Ritland K. 2012. Population genetics of the white-phased “spirit” black bear of British Columbia. Evolution 66: 305-313.
Ritland K., Newton C. and Marshall H. D. 2001. Inheritance and population structure of the white-phased "Kermode" black bear. Curr. Biol. 11: 1468-1472.
posted by bigwest at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文(研究関係)