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2012年04月05日

Spirit bear : 白い黒熊


哺乳類における毛色多型は常にホットな話題の1つですが、近年はそれに遺伝的要因を考慮した解析が進んでいます。
国内ではニホンウサギやアカネズミを材料にした研究をよく耳にします。


北米に生息しているアメリカクロクマ (American black bear, Ursus americanus)は日本に生息しているツキノワグマ (Asian black bear, Ursus thibetanus) と生態が類似していると言われています。

ツキノワグマはアジアクロクマと呼ばれることからも、両種は黒いことが特徴の一つですが、カナダ・ブリティッシュコロンビア州西部の一部には白いアメリカクロクマがいることが知られています。
この地域のアメリカクロクマはKermode bear (Ursus americanus kermodei)という亜種であり、特に白い個体はSpirit bearと呼ばれ狩猟が禁止されています。

この白化はメラノコルチン1受容体(mc1r)という遺伝子の298番目の塩基であるAがGに変異し、それが劣勢遺伝子としてホモになったときに現れる事がわかっています。

2つ前の記事(耳垢と体臭の関係)のGとAが逆の関係になっていますが、メンデル遺伝や優勢/劣勢の関係についてはややこしいですが「耳垢タイプは遺伝子で決まる」を見てください。
耳垢:Gが優勢、Aが劣勢
今回の体色:Aが優勢、Gが劣勢


http://www.kermode-terrace-bc.com/spiritbear.html
ここで映っている親子の写真は母親が黒で、子が白(GG)なので、母親は必ずAGだとわかります。父親はヘテロの黒(AG)か、白(GG)なのでしょう。

http://www.wildanimaltracks.com/spirit_bear.htm
こちらは逆に母親が白(GG)なので、黒い子供はヘテロ(AG)です。父親はホモ(AA)なのかヘテロ(AG)なのかは不明です。

さて、このmc1r遺伝子の頻度について面白い事がわかっています。


より大きな地図で Sprit bear を表示
(マークが1つしか見えないときは地図の範囲を広げてください)


この地図で示した3つの島87頭分の各遺伝子型の頻度は以下の通りです (Ritland et al. 2001)。

各遺伝子型の観察数(とその期待値)、およびG遺伝子の出現頻度
AA(黒) AG(黒) GG(白) G遺伝子の頻度
Gribbell島 7 (4.4) 6 (11.3) 10 (7.4) 0.565
Princes Royal島 26 (22.9) 17 (23.2) 9 (5.9) 0.336
Roderick島 9 (7.52) 1 (4.0) 2 (0.52) 0.208
合計 42 (33.6) 24 (41.0) 21 (12.5) 0.379


数字は実際にその島で観察された個体数(観察値)で、括弧の中の値は期待値です。
特にヘテロ接合(AG)の時の観察値が期待値よりも小さい事がわります。

ここで、期待値の説明をします。

G遺伝子の3島合計の頻度は0.379となっていますが、ということはA遺伝子の頻度は0.621 (= 1-0.379)となります。
大きな箱にAと書いた玉621個とGと書いた玉379個を入れ、2つずつ取り出します。
1000個の玉から2個ずつなので、500組ができあがることになりますが、このとき
AAという組み合わせが現れる確率は0.386 (=0.621 x 0.621)で193組 (=0.386 x 500)
AG0.470(=0.621 x 0.379 x 2)で235組
GG0.144 (=0.379 x 0.379)で72組

となります。

このようにA遺伝子とG遺伝子がランダムに交配する(つまり、それぞれの遺伝子を持った雌雄がランダムに交尾をする)時に生じる子供の遺伝子型は理論的には上記の頻度で出現するはずです。これが期待値です。

上記の表に戻ると、合計で41.0頭(=0.470 x 87頭)のAG個体の出現が期待されるのですが、現実には24頭しか観察されていません。その分、AAとGGのホモ個体が期待値より多く出現しています。このことから、交配はランダムには行われていないことがわかります。

これらの島で白化遺伝子が維持され、またヘテロ接合度が低くなる理由についてHedrick and Ritland (2012)は3つの可能性について考えています。

1.遺伝的浮動(ドリフト)と遺伝子流入
2.選択
3.Assortative mating(同類交配)



1.遺伝的浮動(ドリフト)と遺伝子流入
上述のA・Gと書いた玉の話です。
500組取り出した場合、AAが199組、AGが233組、GGが68組できあがることが期待されます。
この箱から50組だけ取り出したとしたら、AAが約20組、AGが約23組、GGが約7組できあがるでしょう。
これを10組だけとしたら、GGのペアができないかも知れません。逆にたまたまGGが3組もできてしまうかもしれません。
このように数が減少すると、次世代に引き継がれる遺伝子の頻度がランダムな期待値から大きく外れてしまいます。これを遺伝的浮動(ドリフト)と呼びます。

遺伝的浮動が強くなると、多くの場合、頻度が低い遺伝子が失われてしまいます。
野生動植物の保全に関して遺伝的多様性がよく問題になりますが、希少種は個体数が減少していることが多く、この遺伝的浮動が強くかかって遺伝子の多様性が失われる懸念が強いのです。

Spirit bearに話を戻すと、上述の3頭のうち、一番大きなPrinces Royal島ですら個体数は1200頭以下と考えられています。
全てのクマが繁殖できるわけではないので、実際に繁殖に貢献する個体数はもっと少なく、やはり遺伝的浮動が強くかかっているのでしょう。

遺伝的多様性を減少させる遺伝的浮動に拮抗的な作用を持つものは遺伝的交流(遺伝子流動)です。
今回の場合、これらの島は近隣からの個体の移入が、0.02の割合で起きていると考えられています。
しかし、移入個体はG遺伝子を持っていないので、これらの島でのG遺伝子の頻度は下がってしまいます。

ということで、遺伝的浮動と遺伝子流入が続くとG遺伝子は失われてしまう可能性が高いわけです。


2.選択
しかし、数千年〜数万年にわたってSpirit bearが存在していることから、なんからのG遺伝子を増やす方向の力が働いているはずです。その“力”として考えられるのが選択です。

白い個体(GGホモ)だと、黒毛に対して生存率、繁殖率、出生率などが高ければA遺伝子よりもG遺伝子が次世代に引き継がれる頻度が高くなります。
毛色が繁殖率や出生率に直接的に影響しているとはあまり考えられません。

クマと聞いて秋に川に遡上するサケを獲って食べているイメージを持つ人も多いでしょう。
おそらく多くの人のそのイメージは北海道のヒグマによるものだと思いますが、このGribbell島の白毛クマは黒毛クマに比べてサケの捕獲率が高いというデータがあります (Klinka and Reimchen 2009)。

さらに、サケは黒いマントを着た人間よりも白いマントを着た人間のほうが認識できない、ということまで彼らは調べています。
おそらく、水中からの光の変化によって、白色を上手く認識できないのでしょう。

秋はクマにとって冬眠のための食いだめのシーズンで、いかに多く食べられるかは冬眠の成功率に関わってくるし、さらに多く食いだめできた冬には出産する事が出来ます。

ということで、白毛クマはサケの捕獲率が黒毛クマよりも高いことが、生存率と繁殖成功率につながっているのだろう、と筆者は考察しています。


3.Assortative mating(同類交配)
ヘテロ接合個体(AG)が期待値よりも少ないのは、交配はランダムには行われていないことによる、と書きました。
ここでAssortative mating(同類交配)が考えられます。
黒毛は黒毛と、白毛は白毛と交配する傾向があるということです。

黒毛クマの適応度を白毛クマの0.8、他地域からの移入率を0.05と仮定した場合のシミュレーションの結果、60%近い割合で同類交配が行われていると推測されます

しかし、なぜ同類交配が起きるのかはわかりません。
著者らは、白毛の母親を見て育った子供はその色をすり込まれて、白毛クマを選択的に繁殖相手に選んでいるのかも知れない。けど、たぶんこれだけでは説明できない。と、白旗をあげています。


ここの説明には繁殖行動の直接観察や、遺伝分析による家系解析など、バックグラウンドとなるデータが必要でしょう。
しかし、いずれにせよ、遺伝的浮動・選択・同類交配と3要因が絡んでおり、遺伝構造の変化を考えるうえで興味深い個体群である事には間違いありません。


ところで、ヒグマでは国後島での白い個体がいることが知られています。

朝日新聞:北方領土で独自進化?白いヒグマ、国後島で撮影成功


Spirit bearに比べ集団サイズが小さいことや、他地域からの移入が無いことを考えると、白化による毛色多型のモデルとしてはこちらの集団の方が扱いやすそうです。
が、いかんせん、国後島という場所では踏み込んだ研究は難しそうですね。


【参考文献】
Klinka D.R. and Reimchen T.E. 2009. Adaptive coat polymorphism in the Kermode bear of coastal Blitish Columbia. Bio. J. Linn. Soc. 98: 479-488.
Hedrick P. W. and Ritland K. 2012. Population genetics of the white-phased “spirit” black bear of British Columbia. Evolution 66: 305-313.
Ritland K., Newton C. and Marshall H. D. 2001. Inheritance and population structure of the white-phased "Kermode" black bear. Curr. Biol. 11: 1468-1472.
posted by bigwest at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文(研究関係)

2012年01月12日

サイレンサー付きクマ鈴


屋外作業やレジャーでのクマ対策に熊鈴は必須アイテムですが、山中以外でもチリンチリン鳴ってうるさくないですか?
サイレンサー(消音器)付きの熊鈴も売っていますが、ショップでは1500円くらいしてちょっと高いですよね。


私が昨年の夏以降活動してきた車を届けるボランティアの代表の山本みゆきさんは、レザークラフトの製作・販売(あと教室)をしています。
そして、彼女がこの度サイレンサー付きクマ鈴の販売を始めたので紹介します。

bell3.jpg

この写真では普通のクマ鈴のように見えますが、これはサイレンサーがはまっている状態です。


bell2.jpg

これは1枚目の写真の手前(見えている)側を下にして、ベルの底から撮したものです。
サイレンサーはこのようにベルの内側にはめて、音が鳴らないようにします。


bell1.jpg

そして、サイレンサーはストラップと一体型なのでこのように紛失の心配も無し。

そして、このストラップが本革で、彼女の手作りです。

値段は1個850円(送料別120円)です。

興味のある方は、

MMM Leather
山本みゆき



までお問い合わせ下さい。

【1/16 追記】
・ストラップ部分に1文字50円でネームを入れられるそうです。
・山本さんの連絡先を追記しました(本人の了承済み)

【2/6 追記】
・山本さんの連絡先を削除し、MMM Leatherのサイトにリンクするように変更しました。
posted by bigwest at 18:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文(日記?)

2011年12月21日

耳垢と体臭の関係


日本人の耳垢にはカサカサ(ドライ)タイプとベトベト(ウェット)タイプの2種類があることは皆さんご存じでしょうが、このカサカサタイプはアジアに多い、と聞いた事がある方も多いと思われます(こちらの図1)。


それとは別に、日本人は欧米人と比べ体臭がきつくない、ともよく言われており、高校生の頃から 「もしかして耳垢のタイプと連鎖したりしてる?」 などと(たいした根拠もなく)漠然と思っていました。
「他人の耳掃除が趣味」という友人に記録を取ってもらい、その傾向は感じていました。


最近、とても面白い論文が出たのでご紹介します。


耳垢タイプは遺伝子で決まる

耳垢のタイプは ABCC11 という遺伝子上のある1塩基がG(グアニン)からA(アデニン)に置き換わった突然変異に由来しています(Yoshiura et al. 2006)。

GはAに対して優性で、メンデル遺伝をします。
ウェットタイプ:GG(優性ホモ)かGA(ヘテロ)
ドライタイプ:AA(劣性ホモ)

メンデル遺伝をするということは、子供の比率は以下のようになります。

両親ともにウェット
 GG x GG → GG のみ (ウェットのみ)
 GG x GA → GG:GA = 1:1 (ウェットのみ)
 GA x GA → GG:GA:AA = 1:2:1 (ウェット:ドライ=3:1)
片親がウェット
 GG x AA → GA のみ (ウェットのみ)
 GA x AA → GA:AA = 1:1 (ウェット:ドライ=1:1)
両親ともにドライ
 AA x AA → AA のみ  (ドライのみ)


耳垢タイプと体臭の関係

このG→Aという突然変異は、実際にどのような影響があるのでしょうか?

それはアポクリン腺の機能に影響してきます。
人間の汗はアポクリン腺とエクリン腺から分泌されますが、暑いときにかくようないわゆる汗はエクリン腺から出るものがほとんどです。

アポクリン腺はわきの下に多くあり、そこからの汗自体は無色・無臭なのですが、毛穴の一部に接している事から、皮脂などを含んでいます。
そのため、細菌が繁殖しやすく、体臭として臭いを発するのです。

そして、このアポクリン腺は耳の中や、乳輪、陰部などにもあります。

話が戻って、G→Aという突然変異ですが、これによりアポクリン腺からの分泌量が大幅に減少してしまうのです。

耳垢とは、外耳道(耳の穴)表面の皮膚が剥がれたものですが、これにアポクリン腺からの汗が付着して、ウェットタイプになるのです。

つまり、欧米に多いGGおよびGAは、アポクリン腺が活発→ベトベト耳垢&強い体臭
アジアに多いAAは、カサカサ耳垢&弱い体臭

となるのです。


突然変異はいつ起きたのか?(Ohashi et al. 2011)

興味深い事にアフリカではカサカサ耳垢の人はいません。
G→Aという突然変異が起きていないのです。

このG→Aの突然変異は2006世代前(95%信頼確率:1023-3901世代前)に起きたと推測されています。
ヒトがアフリカから世界へ拡散を始めたのが約3500世代前と言われているので(Schaffner et al. 2005)、この突然変異はヒトがアフリカを出た後に起きたものと考えられるのです。

さらに、アジア人とヨーロッパ人との分岐は約2000世代前と言われているので、この分岐後にアジアで起きたのかも知れません。


耳垢タイプと緯度との関係(Ohashi et al. 2011)

さらに興味深いのが、この突然変異で出来たAというタイプの頻度は、緯度と共に高くなるのです。
つまり、高緯度地域ほどカサカサタイプが多い、と言う事になります。

論文中ではアジア人、ヨーロッパ人、北米原住民でそれぞれデータが示されています。
ヨーロッパでも全体の頻度は低いものの、関係性は見られます。

このアポクリン腺の機能の低い(カサカサ耳垢な)Aタイプは出現した約2000世代前は氷期と呼ばれる寒い時期でした。

アポクリン腺の活性が低いということは、わきの下の汗が少ない、ということで寒い地域に適していたのではないか、と論文中では議論されています。

北米原住民でも同様の傾向が見られるのは面白いところです。

分布域の拡大を北に広げていったアジア人とは異なり、北米原住民はユーラシア大陸からアラスカ経由で北米に入り、分布域を南に広げていきました。

つまり、アジア人とは逆のルートです。
ということで、「北に行くほどA(ドライタイプ)が多いアジア人」に対し、
「南に行くほどG(ウェットタイプ)が多い北米原住民」ということになります。

北に行くほど汗をかかない方が適応的なのに対し、南下するほど汗をかく方が適応的、ということです。


北海道生まれの私の個人的な(経験的な?)意見としては、わきの汗は寒さに対してそれほどデメリットになるとは思えないのですが、果たしてどうなのでしょうか。。。

そして、この論文を読んでる間、記事を書いている間、ずっとわきの下が気になってしょうがなかったです。。。


参考文献
Ohashi, J., Naka, I. and Tsuchiya, N. 2011. The Impact of Natural Selection on an ABCC11 SNP Determining Earwax Type. Molecular Biology and Evolution 28: 849-857.
Schaffner S.F., Foo C., Gabriel S., Reich D., Daly M.J., Altshuler D. 2005. Calibrating a coalescent simulation of human genome sequencevariation. Genome Res. 15:1576–1583.
Yoshiura, K.-I., Kinoshita, A., Ishida, T. et al. 2006. A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type. Nature Genetics 38: 321-330.
posted by bigwest at 21:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文(研究関係)